カテゴリー ‘ シンポジウム講演録

なぜ連続講座を開くのか

~連続講座開催の趣旨~

1 母乳育児の保護・推進・支援のための国際的な取り組み

母乳育児には多くの利点があることは広く知られているので、日本では、ほとんどの女性はできれば自分の子どもを母乳で育てたいと考えています。
政府も母子手帳などを通じて母乳育児を推奨してきました。
しかし日本では、人工乳でも母乳でも同じであるかのような育児用ミルク会社の宣伝が社会にあふれている一方で、母乳育児をするために必要な支援や情報が十分に行き渡っているとはいえないのが現状です。
そのため母乳育児についての疑問や不安を解消したり、続けるための援助を受けたりすることが難しい状況の中で子育てをしている女性がたくさんいます。
しかし、これは日本に限ったことでなく世界各国に共通しており、WHO(世界保健機関)やユニセフ(国連児童基金)では、このような現状を変えるためにさまざまな取り組みをしています。
中でも中心的な取り組みは「赤ちゃんにやさしい病院推進運動(Baby Friendly Hospital Initiative)」と「母乳代用品の販売促進活動に関する国際規準(WHOコード International Code on Marketing of Breast-milk Substitute)」です。

「赤ちゃんにやさしい病院推進運動」とは “母乳育児をスムーズに開始し、その後の継続を促進するために、少なくとも医療保健従事者に守ってほしいこと”を10ヵ条にまとめ、それを実践している病院を赤ちゃんにやさしい病院として認定し、その地域の中心的存在として母乳育児の保護・推進・支援という役割を担ってもらうという運動です。
日本では「母乳をすすめるための産科医と小児科医との集い」を母体として発展した「日本母乳の会」が認定審査を委託され、基準に達した施設をユニセフに推薦しており、現在(2003年1月)25施設が認定を受けています。

「母乳代用品の販売流通に関する国際規準」は、人工乳やそれに関連する商品を製造したり販売したりする企業に対して、行き過ぎた広告や不適切な販売促進を一般の販売店や産科施設で行わないことを求めたものです。
1981年のWHO総会で採択されたもので、日本も1994年に賛成をしています。
この国際規準では、WHO総会に参加する各国がその内容をそれぞれの国の法律の中で整備することが求められていますが、日本ではその一部しか法制化されていません。
そのために、国際規準で行なわないように求められている人工乳サンプルの無料配布や「母乳でも人工乳でも変わらない」かのような広告の一般雑誌への掲載が当たりまえのように行われています。

2 日本でも母乳育児支援の大きな力を

前述のように、「赤ちゃんにやさしい病院推進運動」や「国際規準」は日本ではまだまだ浸透していません。
そこで今回、母乳育児支援ネットワークが一員となって活動している国際NGOのWABA(World Alliance for Breastfeeding Action:母乳育児行動連盟)とIBFAN(International Baby Food Action Network:乳児用食品行動ネットワーク)からの代表を呼んで国際的動向についての認識を日本で高めてもらうと同時に、国際的な母乳育児支援ネットワークに日本がつながるきっかけとしたいと考えました。
WABAは毎年、世界母乳育児週間を通して、母乳育児の保護・推進・支援に取り組んでいます。
またIBFANは企業の国際規準遵守状況の監視活動などを通して、企業が国際規準を守るように働きかけています。
母乳育児支援ネットワークは、この2つの国際NGOの日本における活動グループとして正式に承認されています。

さらに、赤ちゃんにやさしい病院推進運動や国際規準遵守モニター活動に、母乳育児経験のあるお母さんとして、また母乳育児の専門家としてかかわっているRos Escoot氏をお呼びします。
彼女は同時にIBLCE(International Board of Lactation Consultant Examiners:国際認定ラクテーション・コンサルタント試験機構)のアジア・パシフィック地区責任者として、母乳育児支援の専門職養成にも携わっています。
このような方々や組織との交流から、日本でも母乳育児支援の大きな力がわいてくることを期待します。

3 なぜ日本で「アジアの母乳育児支援ネットワーク」なのか

WABAやIBFANの本部はマレーシアで、WABAやIBFANの活動もアジアに大きな焦点があてられています。
アジアでは産科施設の設備やシステムが発展途上であり、施設全体の取り組みとしての母乳育児支援が重要であるということもありますが、もっとも大きな理由は経済発展に伴って人工乳やそれに関連する製品の新たな巨大市場として、企業から熱い視線が投げかけられているからです。
特に、日本企業の現地法人がアジア各国において国際規準に違反するような方法で、お母さんや産科施設に不適切な販売促進活動を行っていることがWHOやIBFANでも近年問題になってきています。
このような日本企業の販売促進活動はアジアの女性の母乳で育てる権利を侵害し、子どもにとって最善の栄養である母乳で育てられる権利をも侵害することになるのです。

しかし、そのような企業を送り出す日本という国が国際的にはアメリカと並んで「人工乳育児の文化が深く根をおろしている国」(『ユニセフ年次報告1994』)と認識されているという残念な状況があります。
従って、日本において今回のような講座を開くことで母乳育児支援の国際的な取り組みへの認識を深め、アジアの母乳育児支援ネットワークと連携をし、最終的には日本企業がアジア各国で行う活動への反省を引き出すような運動へとつなげていくことが必要だと考えています。

4 なぜ「女性のエンパワメントとしての母乳育児」なのか

母乳で育てることを強調すると、女性の職場進出や勤務継続の妨げになるのではないかという見方をする人もいます。
しかし、女性の生涯にわたる高い労働力率や政治への女性の参加が多いことで知られる北欧諸国は、また高い母乳育児継続率の国としても知られています。
女性が経済的にも自立し意見を言うことができる国だからこそ、女性が母乳という自分の力で育てることの重要性を社会にアピールし、母乳育児をしながら社会参加し、職場復帰することが実現できるとも考えられます。

そこで、本事業では「母乳で子どもを育てることは女性だけに備わった特性であり、母乳で育てる・育てないは女性が自ら決定し、その決定はだれによっても尊重されるべきである」ことを基本的な理念として、母乳育児支援のための国際的ネットワークの構築とともに、女性のエンパワメントに向けた母乳育児支援のあり方について参加者とともに考えていきたいと思います。

しかし、女性ばかりがいくらがんばっていても母乳育児に対する理解や支援が広まるとは考えられません。
女性にとって母乳で育てること、子どもにとって母乳で育てられることは、だれも侵すことのできない権利であることを男性も理解し、その権利をともに支えてほしいと思っています。
この連続講座を通し、女性も男性も人間として母乳育児支援の保護・推進・支援について考えるきっかけになればと願っています。

母乳育児支援ネットワーク(BSNJAPAN)について

母乳育児支援ネットワーク(BSNJapan)はWABA(母乳育児支援行動連盟)を日本で紹介し、日本での母乳育児を支援する活動を行うことを目的として2000年に設立された非営利団体です。 WABAの支援団体として登録されており、母乳育児支援に関心のある方の参加と協力をお待ちしております。

BSNの理事会は医師や助産師などの保健医療専門家のみならず、社会福祉やメディア社会学、法律の専門家、および母乳育児支援団体の母親リーダーなどを含むメンバーで構成されており、母乳育児がしやすい社会をめざして活動を続けています。

BSNJapanはWABA(世界母乳育児行動連盟)の承認団体であり、乳児用食品国際行動ネットワーク(IBFAN)のメンバーグループでもあります。


最初は母乳だけ、その後も他の食べ物を補いながら母乳を与え続ける。金色のリボンは、 その「ゴールド スタンダード」、つまり理想のありようの象徴です。

WABA(世界母乳育児行動連盟)とユニセフが共同で提唱している「金色のリボン運動」に参加しています。

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