母乳はアレルギーを予防する

これは、1998年当時、厚生省のアトピー性疾患実態調査報告書の調査結果を用いて「ダイオキシン問題を考える会」などが主張していた「母乳の方がアトピーになりやすい」という説について反論するために発表されたものです。

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国際認定ラクテーションコンサルタント 本郷寛子(世田谷区)1998年発表

最近、よく耳にする俗説に「日本人の母乳にはダイオキシンがたくさん含まれているせいで、母乳児にアトピーが多い」というものがあります。
「ダイオキシン問題を考える会」は、平成4年度の厚生省の調査をもとに母乳児と人工乳児のアトピー発症率なるグラフを作成しています。
このグラフをもとに、専門家でさえが「生まれたときからのアトピーが母乳だと6.8%」だとか、「人工乳だと6.1%」だという説明をしているのを見受けます。
私は、そのグラフを見て、素朴な疑問を抱きました。
ひとつは、生まれたときから、母乳児と人工乳児にあんなに差があるように見えるのはなぜだろう、ということ。
もうひとつは、アトピーの診断は、生まれてすぐにはできないのではないかということでした。

母乳児ほどアトピーが多い?

(『平成4年度厚生省アトピー性疾患実態調査報告書』より「ダイオキシン問題を考える会」が作成したというグラフ)

K-2

こういう場合は原典にあたるのが一番です。早速、厚生省の図書館で資料にあたってみました。
そうしたら、これは乳児健診、1歳半健診、3歳児健診でアトピー性皮膚炎と診断された子どもが、さかのぼって何ヵ月から何ヵ月まで母乳だったかを聞いた質問の答えをもとにして作成されたものだったのです。
0ヵ月児の6.8%がアトピーなのではなく、0ヵ月で母乳だった子どもの6.8%が、のちの健診でアトピーと診断されたということ、つまりは、最初に母乳だった子どもの93.2%は、アトピーにはならなかったということだったのです。
「ダイオキシン問題を考える会」作成のグラフは、縦軸を6, 6.5, 7, 7.5, 8と細かくとってあるのでまるで有意があるように見えますが、100%を軸に考えれば差があるほどではありません。
縦軸をおおきくとってみると?

(上と同じグラフの縦軸を最大値45%で作りなおしたもの)

K-1

また、長く飲むほどアトピーが増えるかのように解釈する人がいます。
ちょっと待ってください。アトピーの子どもが長く母乳を飲むのは、牛乳や人工乳が飲めないアレルギー児に必要だからなので当然のことです。
高血圧と塩分の制限食の関係を調べ、高血圧の人の多くはそうでない人に比べ、塩分を控えているから「塩分を控えると高血圧になる」と言っているようなものです。

しかも、厚生省の設問では入院中の人工乳の使用の有無は問うていません。

母乳がアレルギーにいいというのは昔のことだと主張する人もいますので、最近の海外の研究を紹介しましょう。
まず、17歳のまでのアトピー(この場合はアレルギー全般)と母乳育児の長さを調べたLancet vol. 346: 1067, 1995。
長く飲ませるほど特にひどいアレルギーを防ぐということが明らかです。
母乳を飲まないか、1ヵ月間しか飲んでないとアレルギー率が高くなるのがわかります。
また、アレルギーの家系のある5歳の喘息と花粉症を調べたPediatr Allergy Immunol 1994:5:26-28。
6ヵ月完全母乳の場合と3ヵ月で離乳食を始めた場合を比べると、離乳食が早いほうがアレルギー率が高いことがわかります。
Pediatrics, vol 94, 895-901, 1994では、母乳以外のもの(人工乳も含む)を早期に与えるとアレルギー性鼻炎発症の危険を高めるとわかりました。
これらの調査の「母乳」とは「完全母乳」をさしていますが、日本では、アレルギーを持つ子どもがどこまで「完全母乳」だったかの調査はありません。

そこで、「食物アレルギーを持つ親の会」にご協力いただき、アトピーと母乳育児に関する調査(1998年)をしてみました。
227人の母親からのアンケート(無記名)が集まり、一人目と二人目について、母乳育児関連の設問を聞きました。
227人のうち、二人目がいる方は157名でした。両親ともアレルギーなのは、62.6%、どちらかの親のみアレルギーなのは30.4%ですので、9割以上の子どもは親がアレルギーだとわかります。
いくつか質問をしたうちで、特に重要な結果を得られたものを抜粋してご紹介しましょう。

子どもが二人いる場合、どちらがアトピーが強いか、という質問では、上の子と答えたのが、41.4%、下の子と答えたのが、49.1%、同じくらいと答えたのは、7.0%でした。
アトピーの原因が、もし本当にダイオキシンのせいならダイオキシン摂取量の多い上の子どもの方がアトピーが強くなるはずですが、結果は下の子の方が少し多くでました。
余談ですが、平成4年度の厚生省の調査でも、二人目にややアトピーの診断が多いのがわかっています。

 

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それでは、アレルギーを持つ子どものうちどのくらいが、生後すぐの完全母子同室で、完全母乳だったのでしょうか。
一人目の生後30分以内の母子同室率は、わずか5.3%です。
完全母乳となると、さらに減って4%。母乳+糖水を足しても母乳は、たった32.6%、63%の子どもがすでに入院中に人工乳を飲んでいるのがわかります。

母子同室の有無と入院中の母乳〔一人目〕

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母子同室の有無と入院中の母乳〔二人目〕

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さらにおもしろいことに、上と下を比べて下の子どもが軽い(上の子の方が強い)場合、下の子は、66.2%が母乳か母乳と糖水のみで、人工乳を足す割合が24.6%に減っています。
反対に二人目の方が強い場合は、母乳(母乳か母乳と糖水)は、37%しかなく、人工乳を飲ませる割合が、上の子が重い場合の2倍の49.4%にものぼります。(p<0.01)

合計
上段:実数
下段:%
アトピーの強弱
上の子 二人目 同じ位 無回答
全体 157
100.0
65
100.0
77
100.0
11
100.0
4
100.0








完全母乳 34
21.7
17
26.2
13
16.9
4
36.4
-
-
糖水は飲んだが人工乳はなし 48
30.6
26
40.0
18
23.4
3
27.3
1
25.0
人工乳 59
37.6
16
24.6
38
49.4
4
36.4
1
25.0
アレルギー用人工乳 10
6.4
6
9.2
4
5.2
-
-
-
-
全く母乳はなし 3
1.9
-
-
2
2.6
-
-
1
25.0
無回答 3
1.9
-
-
2
2.6
-
-
1
25.0

次に病院で人工乳をプレゼントされたかの有無と3ヵ月以内の人工乳の使用を調べました。

一人目では全体の75%(3分の2)がもらっていて、しかも、もらった人の9割が3ヶ月以内に人工乳を一回以上飲ませています。

二人目になると、その相関関係はもっと顕著です。
二人目に全体の半分強(55.4%)がもらっているのですが、3ヵ月以内に人工乳を飲ませた人の約8割が人工乳のプレゼントをもらっているのに対し、人工乳のプレゼントをもらっていないか断った人の約7割の人は3ヶ月以内に人工乳を飲ませていません。
言い替えれば、3ヶ月以内に人工乳を飲ませていない人の約7割が、プレゼントをもらっていないか断わっています。

つまり、もらえば使う。もしくは、病院の方針が完全母乳率を大きく左右していることがわかります。

病院での人工乳プレゼントの有無と3ヵ月以内人工乳の有無〔二人目〕

hongo27

それでは、人工乳の使用とアトピーの相関関係はどうでしょうか。

こどもが一人目の時には、二人のうち、上の子が強いと答えたうち、上の子の81.5%が人工乳を飲んでいます。また、同じくらいと答えた人(11名)の全員の上の子が人工乳を飲んでいます。
ところが、こどもが二人目になると、下の子のほうが軽い(上の子の方が強い)と答えた人の33%しか人工乳を飲んでいない。
つまり6割が3ヵ月以内に人工乳を一回も飲んでいないことがわかります。
二人目の方が強い場合は、下の子の3分の2が人工乳を飲んでいます。(p<0.01)

アトピーは母乳で起こるのではなく、むしろ母乳にはアトピーを軽減する働きがあること、人工乳こそがアレルギーを起こしているという構図が見えてきます。

二人の子のアトピーの強弱別にみた一人目の3ヶ月以内の人工乳の有無 n=227

hongo25

二人の子のアトピーの強弱別にみた二人目の3ヶ月以内の人工乳の有無 n=157

hongo26

繰り返しますが、ダイオキシンに汚染された世界でも母乳育児は最善の選択なのです。
それは、アレルギー予防という面でもその真実は変わりません。

〔これは最初、「食物アレルギーの子を持つ親の会」のサイトのために作られたものです。転載を許諾してくださった同会に感謝いたします。〕
図表作成協力:高橋万由美

 

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母乳育児支援ネットワーク(BSNJapan)はWABA(母乳育児支援行動連盟)を日本で紹介し、日本での母乳育児を支援する活動を行うことを目的として2000年に設立された非営利団体です。 WABAの支援団体として登録されており、母乳育児支援に関心のある方の参加と協力をお待ちしております。

BSNの理事会は医師や助産師などの保健医療専門家のみならず、社会福祉やメディア社会学、法律の専門家、および母乳育児支援団体の母親リーダーなどを含むメンバーで構成されており、母乳育児がしやすい社会をめざして活動を続けています。

BSNJapanはWABA(世界母乳育児行動連盟)の承認団体であり、乳児用食品国際行動ネットワーク(IBFAN)のメンバーグループでもあります。


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