投稿者: bsn-admin

情報化時代の母乳育児  WABA2001

wbw2001calender  10th Anniversary

【訳注】このパンフレットではcommunicationという言葉がたくさん使われています。これは日本語のコミュニケーションだけでなく、情報や意思の伝達などさまざまな意味を持ちます。そのニュアンスが伝わるよう各項目で状況に応じて意味を補記しました。

乳育児には、子育てやライフスタイルに関するほかの多くの事柄と同じように、情報に基づいて決断する機械が必要です。とはいっても、私たちの「情報源」は年月を経て、根本的な変化と拡張を広げてきました。考えてもみてください!100年前には、たかが写真さえ「目新しいもの」だったのです。情報源が広がるにつれて、情報の質や、情報を提示する動機にも変化が生じました。もっとも、変化が常によいものだとは限りません。母乳育児を保護・推進・支援しようとする今日までの多くの戦いは、情報をいかに取捨選択するかをめぐるものだったのです。
そこで2001年の世界母乳育児週間において、WABAは母乳育児にまつわる知識と考え方と行動を形成するうえでの、情報や医師の伝達、つまり”コミュニケーション”の重要性に焦点を当てることにしました。それとともに、母乳育児の世界的なネットワークづくりや、効果的な”コミュニケーション”を駆使して母乳育児支援を推し進めてきた、WABAの栄えある10周年を祝します。

INDEX

今年の世界母乳育児週間の目標
1対1の”コミュニケーション”(心のふれあい)
情報の大量伝達(マス・コミュニケーション)の始まり
母乳育児の情報競争
母乳育児の保護と促進
「赤ちゃんにやさしい病院運動」(BFHI)
母乳育児のためになくてはならない情報
母乳育児を支える“コミュニケーション”(情報や意思の伝達)
論議を呼ぶ事柄を伝えるとき
行動のためのアイデア

今年の世界母乳育児週間の目標

・母乳育児を考えるうえで、これだけは絶対にはずせないという情報を提示すること。
・“コミュニケーション”のさまざまな形や方法と、それを活用して母乳育児を保護・推進・支援する効果的な手段を浮き彫りにすること。
・母乳育児にとってのハードルや脅威を伝え合うためのアイデアや経験を共有すること。
・母乳育児をするお母さんを支援する、より革新的で役立つ取り組みを提供し、後押しすること。

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1対1の“コミュニケーション”(心のふれあい)

人間は、誕生後すぐに心と心を通わせる、つまり“コミュニケーション”のすべを身につけます。母乳を飲ませるお母さんと、母乳を飲む赤ちゃんを考えてみましょう。見つめ合う目と目。表情。お母さんのやさしい指の感触や心和むにおい。赤ちゃんの力強い吸い方。生命の源である母乳。お母さんと赤ちゃんはそれらを通じて、“コミュニケーション”という美しいダンスを一緒に踊っているのです。この和やかなやりとりにより、お母さんと赤ちゃんの間には、信頼と愛情に満ちた関係が育まれます。
これまで、女性が母乳育児のことを学ぶ主な手段は、お母さんと周囲の人との直接的で個人的な人間関係に基づく“コミュニケーション”つまり情報や意思の伝達でした。赤ちゃんを産む前から、友人や家族を日常的に観察し、やがて赤ちゃんを産んでからは、家族や助産師の手ほどきを受けながら母乳育児のことを学ぶのです。直接、言葉や態度で応えてもらったり、認めてもらったり、問いかけてもらったりすることで、お母さんは学び、実践し、情報を知ったうえでの選択をすることができました。
けれども、過去1 世紀にわたる社会的・経済的な変動、そして“コミュニケーション”の変化は、母乳育児の伝承、学習、実践のあり方に影響を及ぼしたのです。各家庭が母乳育児に対してどんな姿勢をとり、どのような信念を持ち、どう決定するのかを決める情報源は多様化しています。その影響を受け、かつての緊密に結びついた親族を基盤とする小さな社会において成立していた、観察と口伝えによる“コミュニケーション”は、複雑なものになりました。

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情報の大量伝達(マス・コミュニケーション)の始まり

新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットなどの情報コミュニケーション技術は、政府や企業からの支援を受けて発達してきました。こうした技術が進歩し、身近になるにつれて、一般家庭もラジオを買い、テレビを買いました。そして、今ではコンピューターやインターネットの利用もできるようになりました。
このような社会の発展と科学技術によって、従来、家族や近所や地域の中での対人関係から得るもの
だった学びや社会的な影響は、中央集権的なマスメディアと、孤立した個人という関係から得るものへと変容させられてきました。こうした一方的な情報の大量伝達(マス・コミュニケーション)は容易に、人々の感じ方や実際の行動に影響を及ぼし、新たな流行や欲望や行動様式を生み出します。

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母乳育児の情報競争

乳業会社と弱体化する母乳育児文化
そもそもの最初から、乳業会社はやむことなく、人工乳などの乳児用飲食物への需要を掘りおこそうとしてきました。保健医療従事者、医療情報提供者、看護師のようなユニホームをまとった(企業派遣の)育児アドバイザー、販売員などを通じての対人的なふれあいにも多少はよりますが、これらの企業はそのほかのさまざまな戦略やメディアを駆使した、大規模かつ複雑なマーケティングによる販売促進を始めています。市販の乳児用飲食物は、今もなお、より便利で、「科学的」で、完璧な栄養を提供し、より高い社会的地位を表すものとして、販売促進されています。広告は “ふっくらした赤ちゃんを連れたおしゃれなママ”のイメージを駆使して、これらの乳児用飲食物を使えば、理想が手に入るはずという幻想を作り上げています。さらに最近では、人工的に作られた商品のほうが安全だというメッセージが盛り込まれるようになっています。この傾向は、環境汚染の影響を受けている地域や、HIV、AIDSの割合が高い地域においては特に強いといえます。

これまで母乳代用品の販売促進の主要な担い手として大きな役目を果たしてきたのは、保健医療従事者たちでした。出産と母乳育児がどんどん医療の対象となるにつれて、母乳代用品は周産期の一連の経過をいっそう構造化し、計画的にするための、科学的かつ無菌の手段として売り込まれるようになりました。残念なことに、「科学的な」栄養法は、出産と授乳の自然なプロセスについて限られた知識しか持たない男性の医師が支配する環境において、急速に一般的になっていきました。医療や保育の教科書や病院の日常業務の中で、乳児用人工乳がいかに勝っており、母乳がいかに劣っているかについての誤解を招くような情報が標準化され、過激な販売促進戦略がそれに追い打ちをかけました。

母乳代用品の販売促進は、20世紀の大多数の家庭に行きわたりました。古くは産業革命、新しくはサービス経済化の進展によって、経済的な圧力は、家族や友人のもとを離れ、母乳育児に対する伝統的な地域社会の支援との結びつきを後回しにして、家庭が職を求めて住まいを変えることを当たり前にしました。女性が有給の労働市場に参入するとともに、子どもと常に一緒にいる余力がなくなっていったのです。そして乳児期から母乳代用品に慣れさせることは、こうした経済活動を支える「選択肢」であるかのように伝えられました。

全体として、これらの変化は母乳育児や女性の直観的な知恵の価値を下げるものでした。かつて母乳育児文化を支えていた地域社会は加速度的に分断され、支える力を失ったのです。人工乳などの乳児用飲食物や哺乳びんなどの関連製品を赤ちゃんのために「最高のもの」とする過剰な販売促進活動により、お母さんたちの間には、自分の母乳の質や、赤ちゃんの成長や、自分自身の育児能力への迷いが生じるようになりました。お母さんは自信を喪失し母乳育児を早くにやめてしまい、赤ちゃんに栄養不良や下痢、そして時には死という、多くの場合は悲惨な結末がもたらされました。

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母乳育児の保護と促進

「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」
1939年、シンガポールではじめて、早期に母乳育児をやめるようなことにつながる、誤解を招くような宣伝活動と人工的な乳児用飲食物と乳児の死亡率に関連性があることが公にされました。続く数十年、非難と訴訟とボイコットの、そして多くの赤ちゃんの死を経て、ようやく1981年、世界保健総会によって「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」が採択されたのです。「国際規準」は母乳育児を推進・保護し、人工栄養に関係する製品の販売促進に用いられるマーケティングの慣行を規制することを目的としています。現在では、「国際規準」は55ヵ国(訳注:数字は2001年発行当時)を超える国でその全部、あるいは一部が法制化され、さらに多くの国で業界の自主的基準として履行されています。

「国際規準」は変化をもたらしました。けれども、まだ十分ではありません。多くの企業は、表面上は変化を装っていますが、依然として製品の販売を促進しています。乳児用食品国際行動ネットワーク(IBFAN)は、「国際規準」と、その後のWHOによる勧告を遵守しているかを監視し、違反を報告しています。違反がそこにある限り、IBFAN、政府、市民グループは母乳育児を保護することを目的とする法律の整備を求め、ネスレ製品の不買運動などの抗議行動に参加します。

参考文献・情報源

・Breaking the Rules, Stretching the Rules: Evidence of Violations of the International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes and Subsequent Resolutions, 2001, IBFAN ICDC
・A series of 5 IBFAN pamphlets which report on marketing trends: the International Code, HIV and Breastfeeding; Labels; Hospitals & Clinics; Mothers; and the Internet, 2001, IBFAN ICDC
・State of the Code by Country: a Survey of Measures taken by Governments to Implement the Provisions of the International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes, 2001, IBFAN ICDC
・State of the Code by Company: a Survey of Marketing Practices of Infant Food and Feeding Bottle Companies, compared to the Requirements of the International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes, 2001, IBFAN ICDC

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「赤ちゃんにやさしい病院運動」(BFHI)
1992年にUNICEFとWHOが、病院が母乳育児を推進し支援するための一助となることを目的として着手した「赤ちゃんにやさしい病院」運動は、多くの国ですばらしい成功をおさめてきました。 現在では、世界各地に14,500(訳注:数字は2001年発行当時)を超える「赤ちゃんにやさしい病院」が存在します。「母乳育児を成功させるための10ヵ条」のほとんどはなんらかの形で、お母さん・赤ちゃん・医師・看護師・地域社会の間の適切な“コミュニケーション”(情報や意思の伝達)に関係しています。「赤ちゃんにやさしい」かどうかを決める基準の1つは、母乳代用品や哺乳びんや人工乳首の、無償もしくは低価格での提供を受けないという「国際規準」を守っていることです。

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母乳育児のためになくてはならない情報

お母さんの母乳の分泌がよくなるのを助けたかったら、まずは親切に、支援の気持ちを忘れずに。不安を取り除くお手伝いを。大丈夫、母乳で育てられますよと力づけましょう。  『母乳育児のお手伝い』フェリシティ・サヴェジ・キング

●赤ちゃんにとって、これ以上ない、最高の食べ物と飲み物。それは、「母乳だけ」です。 WHOとUNICEFはすべての乳児が、生後6ヵ月まで母乳だけを飲み*、2歳かそれ以上まで補完食とあわせて母乳を飲むことを推奨しています。
●特別な事情がない限り、女性はだれでも母乳で赤ちゃんを育てることができます。家族や友人や保健医療従事者や勤め先からの支援や援助を受けることは、お母さんの力になります。
●赤ちゃんは生後、できるだけ早いうちから母乳を飲み始めることが望ましいでしょう。赤ちゃんは欲しがるときに欲しがるだけ、母乳を飲ませてもらうべきです。
●ひんぱんに母乳を飲むのは普通のことで、赤ちゃんに満足感と安らぎをもたらすとともに、赤ちゃんが飲めば飲むほどより多くの母乳が作られます。赤ちゃんの月齢が上がるにつれて、徐々に、授乳の間隔が長くなっていきます。
●母乳育児は赤ちゃんの順調な成長を助け、病気を予防します。母乳以外の赤ちゃん用の飲食物には予防効果がなく、調乳や調理、食べさせ方や飲ませ方が適切でないと、病気の原因になるリスクもあります。
●赤ちゃんが生後6ヵ月に達したら、母乳以外のさまざまな食べ物も口にできるようになります。けれども、母乳は2歳以上、できることならそれ以上の期間、続けることが望ましいでしょう。
●家を離れて働くお母さんでも、就業時間中も搾乳したり、直接母乳を飲ませたりすることで、母乳育児を続けることができます。十分な出産休暇、母乳育児のための休憩時間や施設、職場近くの保育施設があると助かるでしょう。

注:「母乳だけで育てる」とは、乳児に対し、母乳以外の一切の飲み物や食べ物を与えないことを意味する。その際、乳児はひんぱんに、時間を制限することなく、母乳を飲めることが望ましい。
(出典:UNICEF: Facts for Life: Breastfeeding)

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母乳育児を支える“コミュニケーション”(情報や意思の伝達)

母乳育児で最も大切なコミュニケーションが、お母さん対他者、つまり赤ちゃんや家族や友人や保健医療従事者との個人的なかかわりによる情報や医師の伝達であることは、今も変わりありません。1対1の個人どうしであれ、グループ内であれ、母乳育児について話し、経験を分かち合うことは、お母さんがしっかりとした意識を持って決断を下すのに役立ちます。個人どうしよりも、はるかに強力なコミュニケーションの形も多くあります。テレビやラジオ、出版物、インターネットのような大量の情報伝達方法もそうです。多くの人に情報を伝えるために、ポスターやバッジやTシャツなどにさりげなくメッセージを書く方法もあれば、ゲームやコンテストやパレードやパーティーなどのように積極的に参加する方法もあります。手提げ袋や石けんや鉛筆やカップなどの、景品やおまけは、そこに込められた意味を、受け手が見るたびに思い出すという効用があります。有名人から、「普通の」お母さんやお父さん、おばあちゃん、保健医療従事者など、だれでもこうしたコミュニケーションの担い手になることができます。

このように、使う媒体、伝えたいこと、画像や映像、代弁者の組み合わせはさまざまですが、どんな場合でも、選択に注意が必要なことには変わりはありません。母乳育児を支援するためには、どのように情報を伝えるかのプラン作りが大切です。だれを対象とし、その相手が乳児栄養法のどのようなことを重要視するかを見極め、その人が納得できるメッセージを心に届ける必要があるのです。上に挙げたのは、最適な母乳育児のありかたを推進するために必要な、母乳育児のためになくてはならない情報の例です。これらの事柄についてのさらに詳しい情報は、「参考文献・情報源」で紹介しています。

臨機応変な対応をするための準備
コミュニケーションにおいては、「ダメージ・コントロール」がしばしば必要になります。例えば、母乳育児をけなしたり、攻撃するような話題がのぼったりしたときに、見逃さないよう、心の準備をしておくのです。 大切なのは、その話題の背景と、話題の発端となった報告や事件に通じておくことです。 そのうえで、調査、研究に基づく最新の情報を用いて、正確に、適切に、冷静に、母乳育児を擁護しましょう。メッセージを送る際は、それを届けようとする相手にふさわしい媒体を選びましょう。例えば、政策立案者に対しては記者会見という場が効果的ですし、一般人に対しては論説委員への投書という手段のほうが訴える力があるかもしれません。大切なのは、たとえ例外的なケースについて話をするときでも、大多数の家庭にとっては、母乳育児は最適であるという点を強調し続けることです。

特別な事情がある場合の“コミュニケーション” (情報の伝達)
私たちがメッセージを届けようとする受け手の中には、きっと特別なニーズや困難を抱えているために、私たちからの情報を受けとりにくい人たちがいるはずです。母国語以外の言語の読み書きが不自由なことが障害となって、文書化された資料が効果を発揮できないこともあるでしょう。言語の違い、翻訳者や多言語を操るスキルの不足は、個人対個人のコミュニケーションの妨げになり得ます。 視覚や聴覚に障害を持つお母さん、そのほかの身体的なハンディキャップを持つお母さんには、特別な便宜が必要でしょう。冊子によっては、点字で書かれたものが入手できます。 聴覚障害者向けの特別な電話サービスも役に立つでしょう。

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論議を呼ぶ事柄を伝えるとき2002_japan

論議を呼ぶような事柄のコミュニケーション(情報伝達)においては、結果として母乳育児に対してダメージが残らないように、注意深く、明確にすることが欠かせません。母乳育児に関する2つの難しい論点について、メッセージを伝えるときの具体例を挙げてみましょう。

母乳の汚染
ある地域において、人間に対する環境汚染の「負荷」の度合いを垣間見るには、汚染物質が蓄積される体脂肪を調べるのが適当とされています。母乳からはこの体脂肪を容易に得ることができるため、結果的に、母乳の汚染濃度はしばしば報告されることとなり、あたかも乳児に対する危険性が懸念されるから測定するかのような誤解が生じています。そのような報告が公表されると、母乳で赤ちゃんを育てている家族は不安になります。母乳育児を擁護する側としては、このような事態を見越して、検査機関や環境団体と協調し、さまざまな側面を含めたメッセージを作り出さなければなりません。

つまり、以下のようなメッセージです。

●毒素が食物連鎖の隅々にまで行きわたっており、母乳や人間以外の乳や乳児用人工乳もその例外ではないことを認める。
●(母乳で育てるかどうかにかかわらず)すべての赤ちゃんは、胎児期から環境汚染物質にさらされ、それが体に蓄積していることに言及する。
●何(母乳)から環境汚染の証拠(エビデンス)が見つかったかをやり玉にあげるのではなく、何が環境汚染を引き起こしているのかを見極める。
●人工的な母乳代用品(粉ミルクなど)に関係するリスクや、母乳で育てないことのリスクをはっきり述べる。
●母乳代用品を使うことに関心を向けるのではなく、有毒な工業製品を使わないですむ方法に関心を向ける。
●汚染物質の体への負荷を減らすために、脂肪の多い肉やレバー、汚染水域の魚の摂取を避けるように提案する。
出典:Penny Van Esterik: Risks. Rights and Regulations: Communicating about Risks and Infant Feeding.

母乳育児とHIV/エイズ
【訳注】この項の情報は、2001年発行当時の研究に基づいています。
HIVは確かに、HIVに感染した女性から生まれる乳児の約14%に、母乳を介して移行しますが、これは母乳以外のものも与えて育てられた場合の数字です。母乳を介してのHIV感染率は、赤ちゃんが母乳以外のものは、水さえもいっさい口にしていない期間内ではずっと低いという研究結果もあります。
乳幼児がHIVに感染し、抗レトロウイルス薬(ARV)を投与されない場合、ほぼ例外なく死につながります。けれども物資も、下水などの衛生設備も、清潔さも、医療も、常にあるとは限らない環境においては、赤ちゃんが人工栄養の結果、病気になり、亡くなる確率も高いのです。こちらのリスクは、アフリカを含め、多くの地域においてまだ正確には数値化されていません。そのため、保健医療従事者も、お母さんも、どちらのほうがより賢明な選択であるかが、わかりにくいのです。
一般論としては、国連の諸機関では、以下の2つの条件を満たしている場合のみ、母乳を乳児用人工乳で完全に置き換えることをすすめています。

(1)家族が少なくとも6ヵ月間、十分な量の人工乳を確実に入手できること。
(2)家族が人工乳を正確かつ衛生的に用意する、水、燃料、用品、技術、時間に恵まれていること。

そのほかの選択肢としては、しぼった母乳を熱処理したり、検査によってHIV陰性であることが判明している女性が乳母として母乳を飲ませたりすることなどがあります。

HIV/エイズについての注意点
●家族にとって、「無償かつ秘密厳守のHIVカウンセリングと検査(VCT)」が身近に存在することが必要です。
●赤ちゃんは、妊娠中や出産中にHIVに感染する可能性もあるため、区別がつきにくいのが難点ですが、母乳を介して感染する場合は特に、生後初期のリスクが高いといえるようです。赤ちゃんが、HIVに感染しているお母さんの母乳を介してHIVに感染するリスクは、たしかに、母乳を飲む限り続き
ます。ただし、このリスクは成長するにつれて減少するようですし、赤ちゃんが生後半年間、母乳以外のものを一切口にしない場合には、このリスクはいっそう低くなります。

●また、ほとんどのお母さんはHIVに感染していないか、感染の状態を知らないのですから、全体としては、母乳育児の保護、支援、推進を継続するべきです。実際、例えば2001年にアフリカで妊娠中の定期健診に通っていた女性のうち、VCTすら、受けられる環境にあったのは1%に満たなかったのです。
●「国際規準」や「赤ちゃんにやさしい病院運動」の条項は、たとえHIV/エイズの有病率の高い地域においてでも、継続的に実行されるべきなのです。
●赤ちゃんの感染を防ぐ最もよい方法は、お母さんたちを、性的パートナーからのHIV感染から保護することです。

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行動のためのアイデア

私たちが、それぞれの地域社会でできること
●このWABAパンフレットを自国の言語に訳し、情報を広めること。
●テレビ局や新聞・雑誌・ウェブサイトの編集責任者に手紙を書くこと。母乳育児のよい点を伝えてくれたことについての感謝の気持ちを伝え、内容が母乳育児を邪魔したり妨げたりしている場合はその点を指摘しましょう。
●友人に母乳育児の利点について話し、子どもを持つ男性には、母乳育児への支援を促すこと。
●友人たちと協力しあって、地元で母乳育児に関連する催しを計画したり、情報ブースを設置したりす
ること。
●母乳育児を応援するメッセージをステッカーやシールにして、車の後部ガラスに貼ること。
●母乳育児を描いた本やマンガやお話を読んだり聞いたり、人間以外の哺乳類がわが子に母乳を与える様子を観察したり、さまざまな機会を通じて、自分の子どもを母乳育児という文化になじませること。
●母乳育児を考えるうえで、絶対にはずせないメッセージをよく知ること。
●母乳育児とHIV/AIDSや環境汚染という問題について、常に、最新の情報に通じているようにすること。
●広告看板や公共交通機関に、母乳育児を応援するメッセージやイベント告知を掲示すること。
●地元の図書館にかけあって、蔵書のなかから(一般書も児童書も含め)母乳育児関連の本を展示してもらうこと。図書館でインターネットにアクセスすることが可能な場合には、母乳育児関連のウェブサイトのリストを掲示してもらってもいいでしょう。母乳育児読書クラブを設立するのも一案です。

マスメディアへの働きかけ
●ラジオやテレビの人気番組を監視しましょう。新生児は母乳で育てられるべきであること、正確な情報が描き出されているようにすることを提案しましょう。不正確な情報を見逃さないようにしましょう(それを糸口として、今後のニュースの話題やインタビューの間違った情報が正されていくかもしれません)。
●メッセージを伝えたり、より強めたりする媒介として歌を活用しましょう。地元のラジオ局から流したり、診療所で流したり、さまざまな教室や保育園や親子教室などでの歌の集いで活用したりしましょう。
●ラジオ・テレビ・インターネット向けにそれぞれ、子育て、母乳育児、乳児の栄養についての教育プログラムを作成しましょう。ホンジュラスでは、ラジオ局が母乳育児の9つのゴールデンルールについて、11のプログラムを流しました。そしてさらに、ラジオの特別番組や歌やお母さん向けの冊子や保健医療従事者向けの手引きや研修課程の修了証が用意されました。
●出版物や放送のストーリー用に、ジャーナリストに対し、素材やインタビューするべき人物や報道すべきイベント(ショーやダンスやコンテストなど)を紹介しましょう。こうしたジャーナリストと協働関係を築きあげましょう。
●ラジオやテレビの、視聴者が電話で参加できる番組やトーク番組、インターネットのチャットに参加しましょう。
●ラジオやテレビが政府の管理下にある場合は、メディアやしかるべき行政部門と草の根の地域グループとの協働を促しましょう。

インターネットの活用
●母乳育児に関する良質なウェブサイトのリストを作成し、インターネットが使用できる場所(図書館やネットカフェな ど)で配ったり、直接家庭に届けたりしましょう。
●電子メールによる母乳育児の「ホットライン」を設置し子どものいる人からの質問を受け付け、電話や対面によるカウンセリング、さらには専門医への紹介を受けられるようにしましょう。オーストラリア母乳育児協会(ABA)では、電子メール相談を始めたところ、すぐに世界中から問い合わせが寄せられたそうです。
●ウェブサイト上に母乳育児の研究のまとめや、診療所や病院で働く人のための母乳育児知識検定を設け、24時間アクセスできるようにしましょう。
●母乳育児関連の著作物や現状について、折にふれ、最新情報を送れるように、メールの配信リストを作りましょう。対象は、家庭、保健医療従事者、政策立案者です。
●インターネット上の重要な政策や研究についての文書を見つけて印刷し、インターネットを使える環境にない仲間に配りましょう。

地元の診療所や病院との協力
●世界母乳育児週間を祝う横断幕、看板、ポスターを掲示しましょう
●母乳育児関連の情報を、ロビーや軽食堂や待合室に展示しましょう。
●保健医療施設の看護師・医師・運営者・そのほかのスタッフのさまざまな会合で、その地元における母乳育児の割合、母乳で育てにくい原因、母乳育児を推進するための努力についての統計を提示し、お母さんたちへのさらなる援助や支援を促しましょう。
●保健医療従事者の間で、「週刊母乳育児新聞」を発足させましょう。発行後に、新聞の内容についてのテストをして、最優秀回答者を表彰しましょう。このような取り組みが母乳育児に関する「継続教育単位」と認められるよう申請しましょう。

母乳育児:お母さんと赤ちゃんの健康のために WABA2002

Index
母乳育児:お母さんと赤ちゃんの健康のために
健康なお母さん
健康なお母さんに必須なもの
妊娠と母乳育児
正常な出産のための最良の方法
出産
出生直後の母乳育児
「母乳育児における世界規模の母親支援運動(GIMS)」
赤ちゃんの健康のための母乳育児!
行動のためのアイデア
情報源


乳育児が乳幼児の健康を保護し、推進し、支援するということは、よく知られています。
母乳は、生きるために不可欠なのです。なぜなら、赤ちゃんの脳、免疫系、全身の生理機能の適切な成長と発達を育み、一般的な病気、特に下痢や呼吸器(肺炎を含む)、耳、尿路の感染を予防するのですから。

哺乳行動は成長ホルモンを分泌し、健やかな口腔発達を促し、お母さんと赤ちゃんの信頼関係を確立します。
生後6ヵ月間の完全母乳育児は、環境によって生じた疾患、栄養不良、食物に対する感作とアレルギーのリスクを減らします。

母乳育児はまた、お母さんにもメリットがあります。

母乳育児は、妊娠と出産に続く、ごく当たり前で生理的なものです。
ですから、出産後すぐから(赤ちゃんに母乳以外のものを飲ませずに)完全な母乳育児を始めることは、お母さんの分娩後の過剰な出血や貧血のリスクを減らします。
お母さんと赤ちゃんが母乳育児を身につけ、スムーズにできるようになれば、乳幼児が健康で十分な栄養をとっていくことができるので、お母さんにとってはストレスが減ることになります。
生後6ヵ月間の完全母乳育児は、何も買わなくても、準備しなくても、洗わなくてもいいので、お母さんのお金やエネルギー、時間を節約することができます。
完全母乳育児はそのうえ、お母さん自身の免疫系の働きを高め、次の妊娠を遅らせるのを手伝い、糖尿病のお母さんの場合はインスリンの必要を減らします。
長い目で見ると、母乳育児は乳がんや卵巣がん、骨粗しょう症からお母さんを守ります。

今まで、お母さんのニーズや欲求は、認められたりサポートされたりすることがほとんどなく、無視されてきました。
お母さんの心身の健康、教育レベル、他の人から受ける援助、家庭の経済状況が、母乳育児や子育ての他の側面に影響を与えます。
特に、女性が妊娠や出産で何を経験したかは母乳育児の開始や継続に大きな影響を及ぼします。

今年の世界母乳週間では、母乳育児を通じて、赤ちゃんの健康と幸福を保護、推進、支援するのと同じように、お母さんの健康と幸福を保護、推進、支援する急務についてしっかり目を向けるように呼びかけます。

世界母乳育児週間2002年の目標は

●母乳育児は女性の生殖のサイクル、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)を考えるうえで欠くことのできない重要な要素であることをもう一度確認しよう。
●傷つけられることのない、人間的な出産をすることは女性の権利であるという認識を持つよう促そう。
「母乳育児における世界規模の母親支援行動」(Global Initiative on Mother Support:(GIMS)をお母さんを支援するための方法として推進していこう。

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健康なお母さん

健康は全世界で認められている、基本的人権です。

学童期を含むすべての年代の女性が達しうる最高水準の健康を保つ権利には、以下のものが含まれます。
つまり、十分で信頼に足る医学的情報やインフォームド・コンセント(十分に情報提供されたうえでの同意)、保健・医療ケアと生殖と乳児栄養に関して選択と意思決定ができること、プライバシーや秘密保持が尊重されること、そして、仕事や環境の安全な状況への権利です。

これらの権利は、非常に多くの国家や国際的文書で繰り返し表明されています。
筆頭に挙げられるのは「世界人権宣言」、そして、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)」です。
女性が健康なときに、生まれる赤ちゃんも健康である可能性がいちばん高いのです。

しかし、たとえ妊娠・出産に最適な健康状態でないとしても、女性は妊娠し、健康な赤ちゃんを産み、母乳育児に成功することができます。

これは女性の体の素晴らしい能力と回復力の証拠です!
すべてのお母さんが、自分自身や家族を育むために支援を必要とするのですが、命を産み母乳という贈り物を赤ちゃんに与えるために、また、お母さん自身の健康を維持し、推進するためには、母乳育児中のお母さんは更なる支援を得る必要があります。

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健康なお母さんに不可欠なもの

●適切なたんぱく質・カロリー・ビタミン・ミネラルを含んだ食事は、お母さんの健康を支え、病児や、早産児や低出生体重児のリスクを減らし、産後の回復期や母乳育児中の健康を維持します
●健康・妊娠ケア・疾病のタイムリーな治療や、医学的緊急時のヘルスケアサービスの利用
●安全で健康的な労働条件および生活環境
●アルコール、タバコ、他の中毒性薬物の制限
●医学的根拠(エビデンス)に基づいた、清潔で、尊重され、文化的に適切で家族中心の妊娠・出産・新しくお母さんになった人へのケア
●生後6ヵ月間の完全母乳育児と、できれば自家製の離乳食の適切な使用、母乳育児が2歳かそれ以上まで続けられる正確な情報と支援
●生後6ヵ月間の母乳育児を利用した授乳性無月経による避妊法、妊娠ができるようになったかどうかの認識、他の家族計画法
●支援や情報における、友人や家族のネットワーク
●商業的な影響や経済的な影響が、妊娠・出産・母乳育児にもたらされているということを認識すること

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妊娠と母乳育児

妊娠中、女性の体は赤ちゃんを育み、栄養を与える準備をします。
乳腺が発育し、脂肪が蓄えられ、ビタミンとミネラルの代謝が高まり、授乳のためのホルモンが分泌されます。
妊娠16週までには初乳の産生が始まり、乳房で母乳を作る準備が完成します。
すべての妊娠中の女性は、合併症が出ないように見守るためだけではなく、より健康的で一人ひとりが尊重されたケアを受け、栄養を保証されるために、基本的な保健・医療サービスを受ける権利を持っています。

そのようなケアは以下のことに関しての客観的で、事実に基づいた情報提供を含まなければなりません。

●正常な出産と母乳育児の心身に関する面
●妊娠中に起こる問題や陣痛や分娩に対処するための、薬を使わない方法
●予期せぬ合併症の認識と対応
●初乳や初期の母乳育児の重要性
●出生時の赤ちゃんの持って生まれた能力
●母乳育児をスムーズにおこなう技術と、困ったことが起きたときに乗り越えるコツ

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正常な出産のための最良の方法

出産する場がどのようであるかにかかわらず、陣痛の始まった女性には、以下のことができるようにするべきです。

●そのお母さんの文化、民族、宗教の特定の信仰(信念)、価値観、慣習に応じた、気配りのあるケアがしてもらえること
●陣痛と分娩の間、心身のサポートをしてくれる「お産の付添い人」を選び、付き添ってもらえること
●陣痛と分娩の間の歩行、移動、体位の選択の自由(合併症を予防・治療するための特別に必要な制限を除く)
砕石位(仰向けで両足を挙上)は勧められない
●科学的に実証されていない画一的業務や手順(飲食の禁止、早期破膜、点滴、画一的に行なわれている胎児モニター、浣腸、剃毛など)を最小限にするケア
●人工破膜や会陰切開などの侵襲的手順を最小限にするスタッフによるケア
●薬物を使わずにお産の痛みをのがす方法をトレーニングされ、医学的必要がない限り、鎮痛剤や麻酔の使用を勧めたりしないスタッフによるケア
分娩サービスを提供する保健・医療施設では、以下が必要です。

●(病児、早産児、先天的な問題を持った赤ちゃんを含む)自分の赤ちゃんに、お母さんや家族が触ったり、抱いたり、母乳を与えたり、世話をしたりすることを促し支援する方針

●以下のことに関して明確に定義された方針と手順
周産期を通して、他の産科施設と協力したり相談したりすること。
これは、もともとの分娩施設から別の分娩施設へ移送されることが必要な場合でも、最初からケアをしてきた保健医療者とコミュニケーションを取ることが含まれる
産前産後のフォローと母乳育児支援を含む、地域の適切なサポートに
お母さんと赤ちゃんを紹介すること
お母さんと赤ちゃんにやさしい保健・医療サービス(上記の概要参照)に関する方針があること。
お母さんや胎児や新生児の心身の健康を理解し、どのようにしたら母乳育児がスムーズに始められるかをきちんと理解しているスタッフがいること
これらは、一連の保健・医療ケアの中の大切な要素なのです。

以上の記述は、「産前産後のサービスの改善を求める連合」 the Coalition for Improving Maternity Services の「お母さんにやさしい出産イニシアティブ」Mother-Friendly Childbirth Initiative、及び「WHOーユーロ 子どもの健康と発達部門」によってボログナ周産期部会で2001年1月に作成された「周産期の10の優先事項」から、許可を受けて採用したものです。(引用:Birth 28(2):79-83、and Birth 28(3):202-207).

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出産

すべての文化において、陣痛と分娩は、女性の生涯の中でも特別な時間です。何ヵ月も計画し夢に見ていたことがついに現実となるのです。
女性が陣痛と分娩を安全に、支援され、最大限邪魔されることなしに敬意を払われた環境でおこなうことができたなら、お母さんと赤ちゃんははっきりと意識があるなかで相互に作用しあい、すぐに母乳育児ができるのです。
正常な妊娠・陣痛・出産・母乳育児はお互いに呼応しあっています。
医学的根拠(エビデンス)に裏打ちされたやり方は、出産を正常に保ち、それによって女性は力づけられ、自分と自分の赤ちゃんがどのようなケアを受けるかを自分で決めることができるようになります。

正常な出産のための最良の方法については2ページ目の囲みを参照しましょう。

残念なことに、女性が赤ちゃんを出産するときのこの基本的な能力が、しばしばほとんど支援されないどころか、蝕まれています。
多くの女性には、出産や初期の母乳育児に関する、事実に基づく情報や、熟練した積極的な支援がありません。
そして、自分自身のケアに関する決定に参加するようには力づけられていないかもしれません。
事実、医学的根拠(エビデンス)に基づいたというよりは画一的なやり方を、受動的に受け入れるように奨励されているかもしれません。

そのうえ、出産するお母さんのケアに関して世界的に格差が大きくなっていっているのです。
一方では、多くの女性が社会的資源やサービスに恵まれない地域で、熟練した出産介添え人なしで不潔な環境で出産しているかもしれません。

そのような例では、出産直後の母乳育児は、分娩後の血液喪失を減らし、赤ちゃんの体温維持のため生存に欠かせないものです。
しかし、お茶やほかの飲み物を飲ませることによって制限されたり、遅らせられたり、初乳を差し控えさせられたりしているかもしれません。

もう一方では、社会的資源やサービスに恵まれた地域でのお母さんは、正常で健康な出産に対し、不必要で過剰な出産時の介入を推進するような医療テクノロジーや、特殊で専門的な保健・医療ケアの氾濫に身を置いているかもしれません。

世界保健機関(WHO)の1997年の専門的な論文、『WHOの59ヵ条 お産のケア 実践ガイド』(農山漁村文化協会刊・原題「正常なお産におけるケア」)はさまざまな出産の方法と手順に対し医学的根拠(エビデンス)に基づいた再考を促しました。

推進されるべき方法、なくすべき方法、より適切に使用されるべき方法についての勧告は、2ページ目の「正常出産のための最良の方法」という囲み記事に一般的な言葉で書かれていますので参照してください。

これらの勧告にかかわらず、多くの有害で、効果的でなく、不適切に適用された方法が存続しています。
ある場では、それらは女性や保健医療従事者に、出産や赤ちゃんや母乳育児にどのような影響を及ぼすのかについての明確な情報を提供しないで、単に「便利」で「痛みがない」ものとして、攻撃的に売り込まれているのです。
特に、陣痛時の疼痛抑制のためにお母さんに投与される睡眠薬や麻酔薬は実際は分娩を長びかせ、体を傷つけ、費用のかかる処置をおこなうリスクを増加させるのです。
これらの薬剤はまた、胎児に移行し、新生児が呼吸したり、吸ったり、飲み込んだりする能力に影響を及ぼし、したがって効果的な母乳育児の能力に影響を及ぼす可能性があるのです。

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出生直後の母乳育児

赤ちゃんは自分で乳房を見つけ、吸いつき、母乳を飲む能力を、生まれながらに授かっています。
赤ちゃんはお母さんと肌と肌を合わせていることで、温かく過ごすことができ、たやすく呼吸と心拍数を調整することができます。
出生後数分での授乳は胎盤の娩出を助け、出血を減らし、お母さんと赤ちゃんの精神的な愛着形成を強めます。

邪魔されずにいると、赤ちゃんは生後40分から2時間くらいまで、活動的ではっ きり目覚めた状態が続くでしょう。
その後、赤ちゃんは深い眠りに入ります。

出産のときと同様に、分娩後早期のたくさんの処置が早期の母乳育児を阻害します。
赤ちゃんの鼻や口、そしてのどに直接影響を与えるような処置は、デリケートな粘膜を傷つけたり、初期の吸啜反射を妨げたり、口への刺激をいやがるような反応を引き起こしたりするかもしれません。
計測や予防処置、沐浴のために赤ちゃんをお母さんから離すことは、赤ちゃんがしっかり意識がある状態を乱すことになりかねません。

最初のお母さんと赤ちゃんのアイコンタクトと授乳の前になされる点眼は、お互いの愛着に不可欠な、目と目を合わせることを妨げます。
新生児期の最善のケアは、“赤ちゃんにやさしい病院運動”(BFHI)の核心である、「母乳育児の成功のための10ヵ条」です。
お母さんと赤ちゃんへの干渉を最小限にし、温かく支援するような環境に置いてあげることで、完全母乳育児が保護され、奨励されることにもなるのです。
出産経験が理想的なものでなかった場合でも、10ヵ条はお母さんと赤ちゃんの愛着を促しますし、訓練された出産の介助者、ラクテーション・コンサルタント、看護・医療スタッフ、母乳育児のカウンセラーの共感的な母乳育児の援助をさらにスムーズなものにします。
この支援は母乳育児に対するお母さん自身の決断とやる気を強めるのです。
BFHIについてさらに知りたい方はユニセフのサイト(英文)を参照してください。

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「母乳育児における世界規模の母親支援運動(GIMS)」

母乳育児における世界規模の母親支援運動(GIMS)は、WABAの母親支援部会がによって取りまとめられた新しい世界規模の母親支援運動です。
これは、お母さんが子どもを母乳で育て始め、母乳育児を続けるための支援を得られるよう環境を改善することを目的としています。
そうした支援は、一般的には、励まし、正確で時宣にかなった情報、出産時の人間らしく思いやりのあるケア、アドバイス、安心させてあげること、ありのままを受け入れて認めてあげること、具体的な援助、実際的なコツの伝授などが含まれます。
女性たちは、保健医療専門家、雇用主、友人、家族、地域からの支援を必要とします。妊娠、出産、授乳期間を通して条件が整えられてはじめて、安全に赤ちゃんを月満ちるまで胎内で育て、お産の経験を一緒に分かち合いたいと思って選んだ人に付き添われて出産することができます。
職場で働く女性は、産後の6ヵ月は完全に母乳だけで赤ちゃんを育て、離乳食を始めた後も母乳育児を続けることができるような支援を受けるべきです。

もっとGIMSについて知りたい方は、WABA事務局までご連絡ください。

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赤ちゃんの健康のための母乳育児!

●完全に母乳だけで赤ちゃんを育てると、生後6ヵ月間は、赤ちゃんが必要とするすべての栄養を満たします
●1歳過ぎても母乳を続けることで赤ちゃんの栄養面、精神面の健康に大きな貢献があります
●母乳で育てられた赤ちゃんは、人工栄養された赤ちゃんに比べ、より強い免疫力をもち、より健康です
●母乳中の特別な脂肪酸は、知能指数(IQ)を上げ視力を高める手助けをします
●母乳育児をすると、毎年下痢や肺炎などの疾病が原因で亡くなっている150万人の赤ちゃんの命を救うことができると、研究が示しています

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行動のためのアイデア

女性の健康増進のために

●学童期を含むすべての年代の女性の心身の健康を高めるような企画をし、進めましょう。
(栄養価の高い食事、喫煙の予防と中止、運動、公的な学校教育、家族計画を含む)
●結核、C型肝炎、HIV/AIDS、薬物中毒、のような急性および慢性の疾患を持つ女性が、人間らしく思いやりのある保健医療ケアを受けられるように援助しましょう
●妊娠、出産、母乳育児と女性の健康に関して「最善の方法を教える」セミナーを、家族、保健・医療サービスの提供者、費用分担者(医療保険や政府)、政治家、そして公務員に対しておこないましょう
●あなたの地域における、母乳育児や女性の健康を保護、推進、支援するにあたり、欠けているところはどこか、十分なところがどこか、よいところはどこかについての情報を集めましょう
つまり、診療所、職場、病院、地域のグループなどについての情報を集めるのです
その中で最良の方法を行なっているところを表彰しましょう

思いやりをもち、適切な出産の実践を盛り立てるためには、以下のことをしましょう

●近所、地域、国内の女性の周産期の健康に関する情報を集めましょう
●健康な妊娠生活を送るのにいちばんの障壁になっていることは何でしょうか
●安全で十分情報を提供された出産の経験をするための重要な課題は何でしょうか
●産前産後のよりよいケアを求めるために、地域の家族の声を集めましょう
●保健・医療や社会福祉サービスへのかかりやすさ
●陣痛にどのように対処するかについて教える、事実に基づく情報を根拠とした出産教育クラス
●赤ちゃんのケアと母乳育児に関する両親学級
●家族の健康的なライフスタイル
●受け入れやすく、効果的な家族計画法
●地域の病院や保健医療従事者に出生前、出産、分娩後のサービスについて尋ねましょう
●お母さんと赤ちゃんへのケアが人間的な温かいものになり、利用者の満足感を高め、費用と資源を節約したりすることもできるような改革を提案しましょう
(Care in Normal Birth『WHOの59ヵ条 お産のケア 実践ガイド』(農山漁村文化協会刊)やEvidence-Based Guidelines for Breastfeeding Management During the First Fourteen Days「エビデンスに基づく、生後2週間の母乳育児のガイドライン」を参照)
●出生時の付き添い者やドゥーラ(産前産後の女性を援助する女性)などの出産のサポーターをトレーニングする企画を推進しましょう
●出産と新生児のケアに関する保健・医療の基準、政策、法律を再検討しましょう
●出産と産後の初期に母と子の愛着形成と母乳育児を妨げる可能性のある手順を指示しているような基準、政策、法律を変えるために、医師、政 治家、公務員と協力しましょう

母乳育児を推進するために

●あなたの国が関わる「安全に母親になる運動」などの母子保健援助プログラムが、母乳育児により重点を置いたものとなるよう政府に働きかけましょう
訳注 safe motherhood initiative 「安全に母親になる運動」women in developmentの分野でユニセフやWHOが中心となって進められている運動。
“女性が妊娠出産に伴って死亡したり、病気になったりするのを適切なケアを受けることで防ぎましょう”というもの。詳細はhttp://www.safemotherhood.org/
日本の場合は「健やか親子21」がそれに当たる
●地域の中で、母乳育児の情報と支援をするクラスや、情報が届かないところにも援助を広げる企画をしたり推進したりましょう
●母乳育児の委員会や連携できるようなグループを近隣・地域・国の規模で作りましょう
●“赤ちゃんにやさしい病院運動”をもっと盛んにしましょう
●地域の病院を“赤ちゃんにやさしく”なるように励ましましょう
●“赤ちゃんにやさしい”病院がその質や 医学的根拠(エビデンス)に基づいた実践を維持できるよう助けましょう
●BFHIの認定条件をさらに広げ、出産ケアや、HIV感染が広がっているところでのケアも含むように働きかけましょう
●“国際規準(WHO規準)とその後の乳児栄養に関する世界保健総会の関連決議”を支持しましょう
●政府のリーダーたちや病院の管理者が法律や規制や契約上の協定を作るにあたってWHO規準を使用するよう要請しましょう
●同僚や地域住民にWHO規準を伝えましょう
●どのように違反しているか、どのようにあなたの地域の家族に影響を及ぼしているかを伝え、皆でWHO規準を遵守するようにしましょう

母親を支援する環境を育てるために

●家庭訪問、食料計画、家族計画や母親から母親への支援といった産後の医療ケアや社会福祉のための地域にある社会的資源やサービスを見つけましょう
●地域の共同体の中での母親から母親へのサポートグループの発展と維持を支援しましょう
●2000年にILO総会で採択された母性保護に関する第183号条約と第191号勧告を批准するように国に働きかけたり,地域の職場が,その内容を自発的に取り入れるように働きかけましょう
●具体的な行動のアイデアについては、WABAのサイトにあるILOキャンペーンをご覧ください。
●産休や働く母親の公私にわたる労働条件に関する法律や政策を理解しましょう
●職場の託児所に関する資源やサービスを確認しましょう
●GIMSに参加、支持し、地域で活動しましょう

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情報源

書籍/研究論文

●Enkin, M., M.J.N.C. Keirse, M. Renfrew, and J. Neilson, A Guide to Effective Care in Pregnancy and Childbirth (second edition). New York: Oxford University Press, 1995.
●IBFAN, Breaking the Rules, Stretching the Rules 2001: Evidence of Violations of the International Code of Marketing of Breast-milk Substitutes and Subsequent Resolutions (English and Spanish). IBFAN PDF version downloadable from
●International Institute of Rural Reconstruction (IIRR), Indigenous Knowledge & Practices on Mother and Child Care: Experiencesfrom Southeast Asia and China. 2000
●International Lactation Consultant Association (ILCA), Evidence-Based Guidelines for Breastfeeding Management During the First Fourteen Days. 1999. Available from ILCA, www.ilca.org. Summary on-line at www.guideline.gov.
●Maternity Centers Associations, Your Guide to Safe and Effective Care During Labor and Birth (2000 edition). Website: http://www.childbirthconnection.org/, Tel (USA): +212-777-5000 ext. 5.(現在はChildbirthConnection.orgと名称が変わっています)
●WHO, Care In Normal Birth. Print version ordered through WHO Geneva; PDF version downloadable from www.who.int/reproductive-health/publications/.
『WHOの59ヵ条 お産のケア 実践ガイド』(農山漁村文化協会刊)
●WHO, “Appropriate Technology for Birth (Fortaleza Recommendations).” Lancet Aug 24, 1985:436-437.
●Williams CD, Baumslag N, Jelliffe DB, Mother and Child Health: Delivering the Services. 3rd edition, 1994.

雑誌論文・レビュー

●Cochrane Collaboration Reviews Database www.cochrane.org.
●Heinig MJ, Dewey KG, “Health effects of breastfeeding for mothers: a critical review.” Nutrition Research Reviews 1997; 10:35-56.
●Kennell JH and Klaus MH, “Bonding: Recent Observations That Alter Perinatal Care” Pediatrics in Review 19(1) 4-12, 1998.
●Walker M, “Do labor medications affect breastfeeding?” J Hum Lact 13(2):131-137, 1997.

ビデオ

●Gentle Birth Choices and Birth into Being. Available from www.waterbirth.org
●Delivery Self-Attachment. Shows the difference at birth between babies born to mothers who did or did not use pain drugs in labor. ●Available from Geddes Productions www.geddes.com or Health Education Associates, Tel: +508-888-8044
●Birth in the Squatting Position. Available through Academy Communications, Box 5224 Sherman Oaks, CA 91413 Tel (818) 788-6662
●Giving Birth: Challenges and Choices by Suzanne Arms. Available from www.BirthingtheFuture.com.
●Tried and True. An encyclopaedia of high touch, low-tech comfort techniques. Available from www.Injoyvideos.com

団体とそのウエブ・サイト紹介

●Alliance for the Transformation of the Lives of Children <www.ATLC.org
●Doulas of North America, DONA<www.dona.org>
●Save the Children Every Mother/Every Child Campaign<www.savethechildren.org>
●世界母乳育児行動連盟(WABA)は、国際乳児用食品行動ネットワーク(IBFAN)、ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル(LLLI)、国際ラクテーション・コンサルタント協会(ILCA)といったさまざまな組織やネットワーク、個人が母乳育児を保護・推進・支援するための「グローバル」な連盟です。

WABAは“イノチェンティ宣言”に基づき行動し、国際児童基金(UNICEF)と緊密に連携を取っています。

日本国内の連絡先

母乳育児支援ネットワーク
Breastfeeding Support Network of Japan(BSNJapan)

Top

母乳育児支援ネットワークはWABAの活動を日本で紹介するとともに、日本での母乳育児を支援する活動をおこなうことを目的として2000年に設立された非営利団体です。
WABAの支援団体として登録されており、母乳育児支援の関心のある方の参加と協力をお待ちしております。

翻訳・校正スタッフ:多田香苗(IBCLC)、小野田美都江、瀬尾智子(IBCLC)、高橋万由美、中塚千賀、福原敦子、本郷寛子(IBCLC)、山崎陽美
印刷レイアウト:小竹広子
サイト・レイアウト:池田まこ

この情報の翻訳と配布はWABAからの許可によって実現しました。
日本語訳を複製する場合は事前に母乳育児支援ネットワークへお問い合わせください。

WABAはいかなる形でも、母乳代用品、関連する器具や補完食(離乳食)を生産する企業からの支援はお断りしています。
WABAは世界母乳週間の参加者全員が、この倫理上の立場に従い、これに敬意を払ってくださるようお願いしています。

「授乳・離乳の支援ガイド(仮称)」に対する要望書

この度、厚生労働省によって「授乳・離乳の支援ガイド(仮称)」が策定されるという報を受け、日本において母乳育児支援活動を行っている三団体連名で厚生労働省へ要望書を提出いたしました。
要望書にご賛同くださり、かつサイト上に記載する許可をくださった67団体の名称と併せて、ここにお知らせします。
(文章中の改行は、実際の要望書と異なっています)

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平成18年11月16日

厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長殿

 ラ・レーチェ・リーグ日本 代表 桑原 直美
日本ラクテーション・コンサルタント協会 代表 渡辺 和香
母乳育児支援ネットワーク 代表 柳澤 美香

要望書

赤ちゃんが母乳で育つことは、赤ちゃんやお母さんにとって最も自然なことで、双方の心身の健康にも最良です。
これまでのさまざまな研究で明らかなように、母乳育児は開発途上国だけでなく先進工業国の赤ちゃんにとっても病気になりにくく、アレルギーの発症を少なくし、将来的にはメタボリック・シンドロームの予防にもなります。
保健・周産期医療施設や地域、家族、職場をはじめ、あらゆる場所で母乳育児を支援し、保護し、かつ推進するような社会にしてください。
そのために私たちは、お母さんと赤ちゃんに、よりやさしいガイドの作成をお願いします。

<「授乳・離乳の支援ガイド(仮称)」に対する要望>

(1)母乳育児中のお母さんにわかりやすい記載。
支援ガイド策定にあたっては、母乳で育てられている赤ちゃんを標準と考え、人工乳で育つ赤ちゃんの授乳法や離乳の進め方とは分けて策定されることを望みます。
母乳育ちの赤ちゃんの生活や成長は、人工乳や混合栄養で育つ赤ちゃんとさまざまな面で違うからです。
また専門家が栄養指導として一律に使うガイドではなく、さまざまな異なった背景を持つお母さんの選択や赤ちゃんの個人差を尊重した目安として使われるものを望みます。
特にガイドに掲載される図表は単独で取り上げられる可能性が高いため、家庭で安心して参考にできるように、グラムの記載は避け、日常生活でわかりやすい目安にして作成してください。(例えば、「赤ちゃん用のスプーン1さじ」「ドロドロ状(スプーンを傾けて落ちないくらいの濃さ)」など)
アレルギー特定食品(卵、乳製品など)については、カルシウム・鉄・ビタミンなどが不足なく摂れるような代替食品(小魚・レバーなど)の記載も考慮してください。

(2)離乳準備食は不要であることの明記。
支援ガイドに、スープや果汁などの離乳準備食は不要であることを明記し、母子健康手帳からもその質問項目を削除してください。
支援ガイドの「理論編」と現場での「実際編」の両方を出す場合は、内容を整合させてください。
離乳食開始の目安は、5ヵ月とか5,6ヵ月といった数字は一人歩きをする心配があるため、WHOに準じて「生後半年ごろ」とすることを望みます。
一律にその時期に開始するのではなく、子どもの欲しがるサインに応じた勧め方を目安としてください。

(3)「補完食」というとらえ方へ。
離乳食は、母乳から離すための食事ではなく、母乳を続けながら与える「補完食(栄養を補う食事)」ととらえることで、子どももお母さんも大きな安心感が得られます。
母乳で育てられている子どもが「補完食」を始めても、母乳は欲しがるだけ与えてよく、授乳の回数を減らす必要はないことをぜひ明記してください。

(4)長期授乳を容認する記載。
世界保健機関(WHO)やユニセフが推奨しているように、母子が望むのであれば、2歳以上の長期授乳を続けてもかまわないことを明記してください。

<そのほかの要望>

(1)職場の環境作りの推進。
働く女性もあたりまえに母乳育児ができるよう職場の環境を整え、保育施設に関しても母乳育児を推進してください。
例えば、職場内保育所設置を推進し、認可無認可を問わず保育施設では、冷凍母乳だけではなく、しぼった後に冷凍しないで冷蔵保存している母乳の使用も推奨してください。

(2)商業主義からの母乳育児の保護。
多くのお母さんが、乳業会社の宣伝・販売促進活動によって、自分が母乳だけで育てることに自信を失いがちです。
例えば、保健医療施設で粉ミルクのおみやげを配布したり、乳業会社派遣の栄養士が栄養指導をしたりするような、乳業会社の不適切な宣伝・販売促進活動が行われないように格別の配慮をしてください。

(3)専門家への教育・啓発。
多くのお母さんは様々な矛盾した指導に混乱しています。
母乳育児の支援者が、科学的で一貫した支援法を学ぶことで、現場のお母さんの必要性に応じた、適切な援助を個々に行うことができます。
WHOやユニセフ、あるいは欧米先進国のガイドラインなどをもとに母乳育児支援者への教育を行ってください。
お母さんと家族に対しても産前から母乳育児の利点を伝えることも非常に大切です。

(4)地域の母親同士の自助グループ支援。
地域のお母さん同士で母乳育児を支えあう非営利のサポートグループを支援し、お母さん同士のネットワーク作りを応援してください。

【要望書 発起人】
ラ・レーチェ・リーグ日本
日本ラクテーション・コンサルタント協会
母乳育児支援ネットワーク

【賛同団体】
(サイト上に名称を載せていいと承認いただいた団体のみ記載しています)

日本出産教育協会(神奈川県)  おっぱいサークルENSHU(静岡県)  自然卒乳を考える母の会(岐阜県)  TETER市川(テテ市川)(千葉県)  母乳育児サークル「YYおっぱいクラブ:トペの会」(北海道)  おっぱいっ子クラブ (東京都)  ロハスの会 (奈良県)  布おむつの会(奈良県)  かいじゅうクラブ木更津(千葉県)  かいじゅうクラブ富津(千葉県)  母乳育児サークルLALALAクラブ(秋田県)  M&M&P(ママと助産師とパパのネットワーク)(宮城県)  すくすくくらぶ(奈良県)  ぶどうの会 (大阪府)  母乳育児サークル(京都府)  つるがおっぱいの会 (福井県)  つるがおへその会 (福井県)  ちぃむ☆ラビッこ(京都府)  ぴょんぴょんくらぶ(長野県)  ゆかいの会(長野県)  ママズミルク(東京都)  母乳育児サークルcuddle(カドル)(群馬県)  社団法人 大阪府助産師会 (大阪府)  NPO法人 女性と子育て支援グループ・pokkapoka(大阪府)  サポートグループ「おっぱいクラス」(富山県)  おっぱい応援団(広島県)  葛飾子育て支援グループ「ほっぺにチュ!」 (東京都)  ラクティナクラブ(千葉県)  たんぽぽママのおしゃべり会(栃木県)  矢板つつじママのおしゃべり会(栃木県)  大田原すみれの会(栃木県)  日光もみじママの会(栃木県)  北海道助産師ネットワーク「ポコルの会」(北海道)  子育て支援グループアミーゴ(東京都)  たらちねの会(東京都)  すみれ組(岐阜県)  キャッスルベビークラブ(兵庫県)  ぷちりっち(奈良県)  社団法人 京都府助産師会 (京都府)  NPO法人市民科学研究室(東京都)  母乳育児支援サークル「赤ちゃんとママの集いTEA PARTY」(神奈川県)  特定非営利活動法人 自然育児友の会 (東京都)  子育て・自分育て・発信基地 ピーターラビットの会(広島県)  REBORN(リボーン)(東京都)  ばぶちゃんくらぶ(愛知県)  湘南おっぱい育児の会(神奈川県)  さぬき!いいお産の会(香川県)  女性鍼灸師フォーラム(神奈川県)  社団法人日本助産師会 富山県支部(富山県)  社団法人日本助産師会 長野県支部(長野県)  NPO法人ライフサポート香草の会(埼玉県)  NPO法人信州松原湖高原太陽(長野県)  NPO法人すずらんの会(埼玉県)  NPO法人 騎望の会(埼玉県)  NPO法人深谷市障害者地域生活支援の会(埼玉県)  出産育児ママネットワーク パム(長野県)  育児サークル ビーンズ(長野県)  どんぐりん(長野県)  母親クラブめだかの会(長野県)  ぞうさんクラブ(長野県)  虹の帽子(長野県)  佐久ママネット(長野県)  有限責任中間法人 日本誕生学協会(東京都)  しながわ子育てポータルサイト「てとてとねっと」編集局 (東京都)  子産み・子育て 多摩らんなぁ実行委員会(東京都)  いいお産の日in岐阜(岐阜県)  学校給食と子どもの健康を考える会・神奈川(神奈川県)

以上67団体

過去20年の動向

乳児栄養と離乳

平成12年 乳幼児身体発育調査報告書より(平成13年厚生労働省発表より
詳しくは厚生労働省サイトで)

 出生年次別にみた乳幼児の栄養法について

表10は、昭和55年、平成2年および平成12年調査における乳児の乳児栄養法を示したものである。
平成12年においては、平成2年に比べ人工栄養の割合が減少しており、また、母乳栄養については、月齢が進んでもその割合が高くなっている。

表10 一般調査による乳汁栄養法の百分率、月齢別、出生年次別

(%)
昭和55年平成2年平成12年
月齢総数母乳人工混合総数母乳人工混合総数母乳人工混合
1〜2ヶ月未満100.0
45.7
19.3
35.0100.044.113.142.8100.0(2594)4.811.044.0
2〜3100.0
40.2
30.4
29.4100.041.524.434.1100.0(2594)42.321.136.6
3〜4100.0
34.640.524.9100.037.533.129.4100.0(2348)39.430.230.5
4〜5100.0
39.8
52.218.0100.05.341.723.0100.0(2112)35.939.524.5

( )内は実数を示す。

表11にみられるとおり、生後5~6ヵ月では8割をこえる乳児が離乳を開始しており、生後1年2~3ヵ月未満では8割をこえる幼児が離乳を完了している。
表12は離乳食の回数を示したものであるが、1回食では生後5~7ヵ月、2回食では7~9ヵ月、3回食では9ヵ月以降で多くなっている。
表13は離乳開始および完了月齢の平均値、標準偏差を出生年次別に示したものである。

(注)  この調査でいう「離乳開始」とは、ドロドロした食べ物を与え始めた時期とし、果汁、重湯などの液状は離乳の食物とはしない。「離乳の完了」とは形がある食物をかみつぶすことができるようになり、栄養源の大部分が乳汁以外の食物から摂取されるようになった時期をいう。

表11 一般調査による離乳状況の百分率、年・月齢別

年・月齢総数離乳開始前離乳中離乳完了
0年1~2月未満100.0 (166)100
2~300.0 (236)100
3~4100.0 (239)96.73.3
4~5100.0 (286)76.923.1
5~6100.0 (266)16.983.1
6~7100.0 (236)2.1<97.9
7~8100.0 (292)0.7990.3
8~9100.0 (266)0.49.6
9~10100.0 (233)99.10.9
10~11100.0 (257)0.493.46.2
11~12100.0 (243)7228
1年0~1月未満100.0 (298)0.342.657
1~2100.0 (276)0.7/td>23.276.1
2~3100.0 (241)13.386.7
3~4100.0 (254)5.594.5
4~5100.0 (232)5.294.8
5~6100.0 (238)4.295.8
6~7100.0 (251)298
7~8100.0 (268)2.297.8
8~9100.0 (2151.498.6
9~10100.0 (224) 2.297.8
10~11100.0 (230)0.499.6
11~12100.0 (276)0.499.6
(   )内は実数を示す。

表12 一般調査による離乳食回数別百分率、年・月齢別

%
年・月齢離乳食1回離乳食2回離乳食3回
累積累積累積
0年3~4月未満2.42.4    
4~512.414.90.90.90.10.1
5~645.560.33.54.40.10.2
6~727.988.212.6170.50.7
7~8896.2335044.7
8~92.298.428.278.28.413.1
9~100.799.111.189.317.330.4
10~11  5.694.92555.3
11~12  2.597.418.273.6
1年0~1月未満    14.287.8
1~27.194.8

表13 一般調査による離乳の月齢および完了月齢、平均値・標準偏差、出生年次別

出生年次離乳開始離乳完了
実数平均値標準偏差実数平均値標準偏差
(人)(月)(人)(月)
平成6年6885.11.367912.52.5
79055.21.389412.72.6
89325.11.492112.62.7
99345.11.292512.82.8
1015155.11.3149212.82.4
1130625.11.5197511.91.5

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